【論文紹介】日本語ラ行音についてーrtMRIを用いた研究ー

構音障害
おくらら
おくらら

どーもー、おくららです。
今回は日本語ラ行音に関して分析している論文の紹介です。
臨床でも用いることの多いラ行音ですので是非参考にしてみてください。

はじめに

構音障害や嚥下障害の臨床で取り扱うことが多い音に「パ行」、「タ行」、「ラ行」、「カ行」があるかと思います。いわゆる「パタカ」ですね。

今回は特に「ラ行」に関しての論文を紹介させていただきたいと思います。

有名な先生なのでとても参考になる論文だと思います。

今回は『ラ行音に関しての調音動態が知りたい人』におすすめです。

以前にラ行音に関して記事何個か書いているので参考にしてくれればうれしいです。

【論文紹介】ラ行音について考える
ラ行音に関してWaveを用いた研究です。話しにくさのある健常成人と健常成人との比較ですが、様々な結果が書かれているので参考になることも多いと思います。
【論文紹介】ラ行音の異音について考える
日本語ラ行音の異音についてです。丁寧にまとめてあった論文があるので紹介しながら臨床で生じていることの考察をまとめてみました。

概要と結果

今回紹介する論文は『日本語ラ行子音の調音:リアルタイムMRI による観察』です。

概要としては
目的は日本語ラ行音の調音に関して明らかにすること、方法は「リアルタイムMRI 日本語調音運動データベース」を用いて分析しています。従来のMRIでは繰り返し発話したものを「同期法」により動画にしているようですが、この方法は一回の発話で分析しているようです。結果と考察は齟齬があってはいけないので引用していきたいと思います。

 

両図の比較から、日本語ラ行子音の調音位置を後部歯茎に限定して指定する根拠はないことがわかる。なおラ行子音に口蓋化による調音位置の変化が生じないことも新知見であり、今後、別稿で論じる予定である。

前川喜久雄. 日本語ラ行子音の調音:リアルタイムMRI による観察. 日本音声学会第33回全国大会予稿集. 2019

直前フレーム(測定対象フレームのひとつ前のフレーム:左パネル)と測定対象フレーム(右パネル)におけるv1(舌尖)とv4(舌端)の位置を比較した散布図である。
いずれのフレームにおいても舌尖は舌端よりも低い位置に分布していることがわかる。また、舌尖の位置は直前フレームから測定対象フレームにかけて上昇しているものが多いことも推測できる。

前川喜久雄. 日本語ラ行子音の調音:リアルタイムMRI による観察. 日本音声学会第33回全国大会予稿集. 2019

直前のフレームから対象フレームにかけてのv1の位置変化を後続母音別に示したグラフである。
(略)
前進上昇か前進下降かの総相違と後続母音の間には明瞭な関係は認められない。

前川喜久雄. 日本語ラ行子音の調音:リアルタイムMRI による観察. 日本音声学会第33回全国大会予稿集. 2019

 

調音点と調音方法に関しての結果をまとめてくれています。

論文の前半にも書かれているのですが、調音様式がtapなのかflapなのかはtapが無難という考察をされています。しかし、前進下降の運動もあるも閉鎖がsub-laminalではないことから典型的なflapではないだろうとも書かれています。

音声学的な点に関して最後に表記に関しても書かれていました。

IPAによる日本語ラ行子音の転記にあたっては[ɽ]ではなく[ɾ]を利用することが望ましい。

前川喜久雄. 日本語ラ行子音の調音:リアルタイムMRI による観察. 日本音声学会第33回全国大会予稿集. 2019

学生のころに習っていた[ɾ]が望ましいということです。

各音の詳細な分析に関しては本文を参照してください。

業績には別稿が気になりすぎる。業績リストにそれらしいものはないので今後楽しみに待っています。

 

おくららの感想

それでは、私見を述べさせていただきます。

まずは、運動に関してですがかなり興味深かったです。

以前から感じていたことですが、巻き舌のようにリハビリすることの意義を考える機会になりました。

ラ行音の練習を行うことは少ないのですが、口蓋に沿いながら舌の運動を行うことはありませんか?

私自身は歯茎部に綿棒をあてて舌の裏側で押し出すような練習を行います。

今回の論文では「舌尖の下面によるsub-lominalな閉鎖は観察されない」と書かれています。

私自身も舌の裏面(下面)を用いた構音は実際にはしないと実感しているので臨床の肌感覚とも一致しています。

では、なぜそこまで感じていてそのような運動を行うのでしょうか。

そこには類似運動による舌の活性化を図ることが目的にあります。構音の基礎訓練として重要なことは「まったく同じ調音様式の運動」を行うことではなく、「実際の調音様式に必要な筋の活動を誘導する」ことだと考えているからです。

まず、調音点ですが、[s]との比較からはわかるようにx軸(前後軸)では大きく変化がないように見えます。

考察でも「歯茎ないし後部歯茎」と述べているので歯茎に調音の意識を向けることには意味を感じます。

調音法ですが、少なくとも論文内では前進上昇か前進下降かの結論は出ていません。

これは私も臨床での肌感覚的に感じています。場合によっては下降で構音しているんじゃないかと感じることもありますし、後続母音によっては母音のr音化に近い構音動態になっているようにも感じています。

その際の内舌筋(おそらく上縦舌筋やら下縦舌筋やら)の運動をどのように誘導するかを考えて運動することが基礎訓練としては必要だと思います。

臨床での肌感覚ではタ行音で用いるような舌尖(なんなら舌端)の挙上のような運動は可能でもラ行音のような舌尖の精緻な挙上からの下降はなかなか運動感覚がわかりにくい患者さんが多いです。

そのために、目的として舌下面で押し出すことではなく、舌尖挙上位で前進させるような舌内部での選択的な運動を行うことを目的に行っています。

この論文からもう少し舌の前進上昇と前進下降のパターンを考えながら基礎練習を行う必要があるなと感じました。

あと、面白いのは後続母音によって運動距離が異なる点ですね。

特に[i]では他に比べて小さいように感じます。同じ狭母音の[u]に比べても小さいように見えます。

運動方向に関しては明瞭な関係は認められないそうですが、ベクトルの幅に関しては文中で言及されていません。

そこらへんの差は臨床での「り」の言いにくさのヒントになるかもしれませんね。

どちらにせよ構音の評価の際に言いにくい後続母音を判断することの重要性を感じる結果になっていると思います。

 

研究に関してですが、この方法なら臨床での構音障害症例にも用いることできるんじゃないか?と思ったことです。

今までのMRIは何度も何度も発話しなくてはいけないので症例への負担が懸念されていましたが、一回の発話でよいのであれば負担も少ないと思います。

X線での分析は被爆があり推奨されるかは賛否両論だと思いますがこれはMRIは安全性が保たれていると思うので汎用性がありますね。

理想はMRIで運動特性を測定し、USはベッドサイドやST室でFBに用いるという方法が最も視覚化できる方法だと思います。

EPG研究者(初級者)の私としてはUSに簡便なEPGを合わせることでかなり正確にFBに用いることができるので進めていきたいですね。

そのためにも、どんな構音運動の際にどのような練習が有効なのかを考える作業が重要ですね。

危機を用いなくても現在の臨床でいえることだと思うので経験とアイディアを積んで形にする作業は継続する必要があります。

 

余談ですが、前川先生の業績リストがえげつないことになっている…。
ほんでオープンアクセスにしてくれているのが助かる。
引き続き学ばせていただきます。

少し長くなりましたが、これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:前川喜久雄. 日本語ラ行子音の調音:リアルタイムMRI による観察. 日本音声学会第33回全国大会予稿集. 2019

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