【論文紹介】鼻咽腔閉鎖に関してー筋活動の視点ー

構音障害
おくらら
おくらら

どーもー、おくららです。
今回は鼻咽腔閉鎖に関して筋電図の話してです。
私の生まれる前の論文ですが、興味深い内容です。

【論文紹介】鼻咽腔閉鎖に関してー筋活動の視点ー

はじめにどーも

開鼻声や嚥下圧など鼻咽腔閉鎖に関しては臨床で考えさせられることも少なくないと思います。

鼻咽腔閉鎖に関して関連する筋に関して筋電図の論文です。1973年の論文なのですべては鵜呑みにはできませんが、大変高名な先生の論文なので今だって読む価値は十分にあります。

針筋電なので今だと倫理委員会が五月蠅そうですね。

今回は『軟口蓋挙上の筋を知りたい人』におすすめです。

以前に構音訓練についてや構音の視点から鼻咽腔閉鎖機能について書いているので参考にしてみてください。

【論文紹介】鼻咽腔閉鎖に関してー構音の視点ー
今回は鼻咽腔閉鎖不全についてです。構音でも嚥下でも重要な役割をしている鼻咽腔閉鎖機能ですが訓練って難しいですよね。今回は具体的な訓練方法ではありませんが、構音練習を行う上で参考になる実験があったので紹介し最後に私見を述べさせていただきます。
【構音訓練】構音訓練について考える
構音練習を行い際に考えなくてはいけない要素をまとめてみました。音の選び方や単語の作成方法などが分かる記事になっています。

論文紹介

今回紹介する論文は『調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に』です。

冒頭にも書きましたが、1973年の論文なので正直古い論文です。ただ、参考になる結果が多かったので紹介させていただきます。

口蓋帆挙筋、上咽頭収縮筋、口蓋咽頭筋、口蓋舌筋にいわゆるdouble-ended hooked-wire electrodesうぃ刺入して、発話時の筋電図を記録した。
被験者として、米国人3名、スェーデン人1名、日本人1名について記録を行ったが、本報告では米国人についての実験結果を中心に述べる。
検査後としては(略)、例としては/fimpio/,/fandap/,/fumgup/,/fipmip/,/fidnap/,/fukmup/などがあるわけである。

廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

 

確認している筋は軟口蓋挙上に関与する筋の代表かと思います。

個人的には口蓋帆挙筋が重要なのは想像できると思いますが、他の筋(特に口蓋舌筋)の活動が気になりながら読み進めました。

被検後は一個目の母音の次に子音がくるか鼻音が来るかの組み合わせで作成しているようです。

 

すべての被験者において、口蓋帆挙筋の活動は最も恒常的なパターンを示し、その活動は非鼻性調音、すなわちoral articulationに対応して増強し、鼻音調音で抑制された。
(略)
母音差については、/a/の場合の方が、/i/,/u/の場合より低い。なお破裂音の調音点がことなっても、口蓋帆挙筋の活動のパターンやその程度に有意差は認められなかった。

廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

時間軸上の0点は破裂音と鼻子音の境界地点とのことです。

図からもわかるように後続母音が/a/のときだけ活動が弱いですね。

 

語中の破裂音に対応する活動のピーク値を比較すると、鼻子音に後続する場合の方が、鼻子音に先行する場合より高いピーク値を示している。

廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

  

確かに、破裂音が後続するパターン(点線)のほうが高い位置までいっていますね。

ここですが、最大値のことと順序のことは書かれていましたが、振れ幅については書かれていませんでした。

 

口蓋帆挙筋の筋電図のカーブ上昇が、口蓋帆の挙上に先行しており、それぞれのピーク時点について比較すると、鼻子音+破裂音の場合は約110msec、破裂音+鼻子音の場合は約60msec、筋電図のピークが口蓋帆挙上度のピークに先行している。

廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

 

これは口蓋帆挙筋の活動と口蓋挙上の関連についての図です。

音によって程度は異なりますが、基本的には軟口蓋の挙上に先行して口蓋帆挙筋が活動するようです。

 

上咽頭収縮筋の活動は鼻音部分に対応して抑制される傾向にあった。
(略)
口蓋咽頭筋の活動は、非鼻音調音に対応して高まり、鼻音部分に対応して抑制される傾向にあった。
(略)
口蓋舌筋の活動は母音部に対応して増強していると考えられ、その程度は/a/の場合に最も著明であった。また/k/の調音に対応して活動が認められた。

廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

基本的には口蓋帆挙筋以外は恒常的な活動パターンは得られなかったみたいです。

一部では母音との関連も認めたみたいですので興味のある方は読んでみてください。

 

おくららの感想

それでは、私見を述べさせていただきます。

内容云々ではなく、パソコンを使えない時代にこんな研究してるなんで凄すぎるというのが感想です。

今だとソフトで一発の計算もおそらくは地道にやったことでしょう。

著者は業界ではレジェンド的存在の先生ですが凄すぎますね。

もう一つは、今とは機器の性能が違いすぎる論文なのでどこまで活用すべきかという点です。

たくさんの最近の論文と比べたわけではないのですが、さすがに約半世紀前の論文なので差が生じている可能性は否めません。

なので良い意味で批判的な姿勢で論文を読みましたが内容は興味深かったです。

 

上記のことを考慮したうえで臨床の肌感覚として感じる私見を述べていきます。

まずは、口蓋帆挙筋の活動では/a/が/i/,/u/より低かったという結果がありましたね。

以前の紹介した平田先生の論文では、だいたい[i]>[a]>[u]という結果だったと思います。

いやいや、異なってるやんと思ったのですが、そもそも計測している値が違うので異なるのはごく自然なことです。

むしろ、口蓋帆挙筋の活動だけでは開鼻声値の差を求めるのは難しいのかもしれません。

軟口蓋の挙上が乏しい=開鼻声ではない可能性があるので、臨床では当たり前のことですが、視診と聴診の両方を並行して利用していく必要がありますね。

 

破裂音+鼻子音や鼻子音+破裂音によって活動が異なることに関して興味深いのですが、日本語での活用は難しいと思うのが本音です。

日本語ではC+Vの形が基本になるのでC+Cの方で構音する練習は導入しにくいかもしれません。

まぁ、練習として「んーーぶ」や「ぬー」のように練習してもよいかもしれませんけどね。

もちろん、やったことないので効果があるかとかは全くわかりませんけどね(なんか難しそう…)。

あと、さらっと書かれていましたが、

懸垂頭位で筋電図を記録した経験でも、鼻音調音において鼻音性が減少することはなく、しかも口蓋舌筋の活動がますこともなかった。この事実は、口蓋帆の下降には重力の関与が少ないことを示唆するもので、上述の組織の弾力のみで口蓋帆が十分安静位へ戻りうることが推察されよう。

廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

これ面白いですよね。

口蓋舌筋の活動が高まらないのはわかる気がします。

その時の非鼻音子音で口蓋帆挙筋の活動が高まっているのかどうなのかが知りたいですね。

MRIを用いた調音実験からも健常者では臥位でも軟口蓋の動きを発話の際に困らない程度に制御できることはわかるのですが、筋活動の差に関しては興味があります。

臨床では臥位になると構音の歪みが強くなることや開鼻声が強くなる場面に遭遇します。

舌の位置による影響はもちろんあると思うのですが、姿勢によって口蓋帆挙筋や口蓋帆張筋に変化があるのかは関心があるところです。

 

今回は筋電図という視点で鼻咽腔閉鎖についての論文を紹介しました。

昔の論文なのでどこまで正しいのかはわかりませんが、大変興味深い内容でした。

筋活動の視点からも鼻咽腔閉鎖を考えて介入方法を検討出来たらよいですね。

私個人としては基本的に構音を用いて鼻咽腔閉鎖を促すようにしてかかわっているので、訓練をするなかで、今回の結果から何かアイディアが生まれればよいなと感じております。

とりあえず口蓋帆挙筋の解剖学的位置の確認をします…。

 

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:廣瀬 肇. 調音時の鼻咽腔閉鎖機構 筋電図学的知見を中心に. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 76巻11号. 1973

コメント

  1. w8zu3e

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