【論文紹介】聴覚野について考える

高次脳機能障害

聴覚野について考える

おくらら
おくらら

先日院内の覚醒下開頭術の勉強会で聴覚野について勉強しました。
正直成人領域で臨床していると聴覚処理の詳細までは臨床で要求されない印象です。本当はいけないと思うので聴覚野について学びなおしました。

はじめに

言語聴覚士なら誰もが、聴覚領域に関しては学校で勉強していると思います。

外耳道、鼓膜、耳小骨、蝸牛…と感覚器官としての聴覚伝導路については学ぶことが多いと思いますが、大脳での聴覚の処理についてはふわっとしている方も多いのではないでしょうか。

聴覚野、ウェルニッケ野と大きなくくりでしか理解していない方も少なくないと思います(私もそうでした)。

言語聴覚士としてよくないと思い学びなおしました。

結論から言うと『第一次聴覚野周辺でも多くの処理を行っている』です。

なので今回は『聴覚野の機能局在を理解していない人』におすすめです。

聴覚野の機能

伝導路について

もはや全然専門分野ではないので詳細に記載されている論文に頼りながら話を進めていきます。

今回は内藤先生の『聴覚と脳機能画像』という論文を参考にして書いてます。

まずは、伝導路についての論文を見ていきましょう。

蝸牛で神経信号に変換された後、蝸牛神経核、上オリーブ核、外側毛体格、下丘、内側膝状体など、脳幹の複数の聴覚中枢を経て、聴皮質に至る。

高橋 宏知,聴皮質の情報処理,日本音響学会誌,67巻3号,2011

恥ずかしながら読んでて「せやせや、そやったわ」ってなりました。

内側膝状体から聴覚皮質への神経連絡に関してはさらに研究が進められているようです。

(A)聴覚伝導路の全体像
蝸牛の基底板の振動は電気信号に変換された後、聴覚伝導路を通って脳の中を進んでいく。途中、蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘中心核、内側膝状体腹側核などの神経核を経由し、最終的に大脳聴覚野に音情報が到達する。蝸牛で出来たトノトピーは、脳を伝っていく中でずっと保存されている。

(B)内側膝状体腹側核(MGv)から大脳聴覚野への神経投射
MGvでは、各周波数にチューニングされた細胞が低音から高音まで並んでいる。MGvの細胞は、その関係を保ったまま一次聴覚野へ投射する。二次聴覚野の神経細胞も低音から高音へと並んでいるが、二次聴覚野の神経細胞がどのように音の高さの情報を受け取るのかよく分かっていなかった。

鹿児島大学大学院HP.2020.9.21閲覧

調べていてこの図がかなり秀逸だと思いました。私にもわかりやすいのは良い図の証拠です。

内側膝状体から一次聴覚野に入力されてから二次聴覚野に入力されるのかと思っていましたが、他のルートも発見されているようです。

蝸牛で作られたトノトピー構造は聴覚野まで保持されており、聴覚野に入力される前に脳幹でも解析をされているようです。

その点でいえば視覚の解析は外側膝状体ぐらいでしょうから、そこが聴覚と視覚で異なる点ですね。

一次聴覚野のtonotopic organizationに関する考え方は、外側が低音で内側が高音という単純な配列から、高音・低音・高音という折り返し型になり、さらに前述のV字型へと変遷している。

内藤 泰,科学技術の進歩と聴覚医学「聴覚と脳機能画像」,AUDIOLOGY JAPAN,57巻6号,2014

ちなみに、トノトピー構造についてですが、低音から高音に順番に配置されているというイメージですね。

ピアノの鍵盤のように単純に並んでいると学習した気がしますが、実は低い・高い・低いがもう少し複雑に配置されているようです。

ちなみに、私は脳卒中の臨床において聴覚野のトノトピー構造を意識したことはありません

そんなピンポイントに障害されている症例にお会いしたことが無いからです。

ただ、これから出てくる音韻処理は意識しています。臨床の肌感覚としてはそこが重要だと感じます。

音響処理について

次は音響処理についてです。

ここらへんから言語聴覚士としては知っておきたい領域ですね。

逆回し語音聴取によって両側の側頭葉が賦活されるが、普通に再生した言語音による賦活範囲より相対的に狭く、概ね上側頭回に限局している。

内藤 泰,科学技術の進歩と聴覚医学「聴覚と脳機能画像」,AUDIOLOGY JAPAN,57巻6号,2014

逆回し語音は通常の音声を逆から再生した音のようです。それを聞いた時と無音状態を差し引いて判断しているようです。

逆回し語音、ヒトの声だということはわかっても意味は理解できない音なので、音韻処理機構が部分的に活動している可能性はあるようです。

図を見る限りでは、左半球で多く活動するということが重要ですね。

音韻処理について

音響のつぎは音韻処理についてです。

音韻処理領域は左側頭葉の上側頭回腹側から上側頭溝に限局
(略)
音響分析は両側側頭葉の上側頭回に広がっていたのに対し、音韻分析は、より左半球に偏して上側頭回中央領域外側から、その腹側の上側頭溝付近に限局している

内藤 泰,科学技術の進歩と聴覚医学「聴覚と脳機能画像」,AUDIOLOGY JAPAN,57巻6号,2014

こうなるとだいぶわかりやすいですね。こうやって一次聴覚野に入力された音が、どんどん高次聴覚野にすすみ処理がなされていく流れが想像されますね。

私は音韻処理機能が低下しており、聴覚的理解の低下や復唱の困難さ(モーラ数自体が誤っているような症例)には、タッピングを行うことや視覚図を用いて音韻数を提示しながら音声入力を行います。

上側頭回の病巣の場合には、音韻処理機能の低下を疑いながら初期評価を行います。

こういった予測をすることでちょっとした関りが変わってくると思います。このちょっとが症状の分析には重要です。

意味処理について

次に意味処理の過程に移ります。

意味処理は言語聴覚士の臨床でも重要な要素なのでしっかりと把握しておきたいところですね。

言語の意味処理に関与する領域はいわゆるウェルニッケ野や前頭葉のブローカ野といったシルビウス裂周囲の古典的な言語担当領域に限局せず、大脳に広く分布するが明確に左半球に偏している。
(略)
言語の意味処理を遂行していると推測される部位は、
1)頭頂葉の後下部(角回)
2)中側頭回
3)紡錘上回と海馬傍回
4)前頭前皮質背外側部
5)下前頭回
6)前頭前皮質腹内側部
7)帯状回後部
の7領域に分かれている。
(略)
角回を意味処理機構の中で最高位に位置づけ、概念の検索、統合を行う領域と推測している。

内藤 泰,科学技術の進歩と聴覚医学「聴覚と脳機能画像」,AUDIOLOGY JAPAN,57巻6号,2014

意味処理は広範囲に関わるので、限局したものはなさそうですね。

ただ、やっぱり角回が重要ということは間違いなさそうですね。

意味処理を掘り下げると、認知神経心理学で扱う要素も含まれてくると思うので、今回は局在のみにしておきます。別の機会に意味処理については考えたいと思います。

また、この論文では難聴の方の聴覚刺激に対しての活動も載っています。

今回は割愛しますが、高齢化社会において重要なことだと思うのでこれも別の機会にまとめたいと思います。

まとめ

今回は聴覚野のことについて簡単にまとめました。

本当はコア、ベルト、パラベルトのことについて書こうと思いましたが、自分の中で飲み込むことでいっぱいいっぱいで消化できていないのです…。

今回は専門分野ではないので恥ずかしいぐらい基礎的な内容になっていると思います。

ただ、論文を読んで感じたことは、聴覚野の位置や周辺の機能の理解脳卒中の臨床においても重要であるいうことです。

聴覚野周辺の脳卒中患者に遭遇することは少なくないので基礎的な知識がないと適切な評価はできないと思います。

今後はもう少し深堀して理解し臨床に応用していきたいと思います。

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:高橋 宏知,聴皮質の情報処理,日本音響学会誌,67巻3号,2011
内藤 泰,科学技術の進歩と聴覚医学「聴覚と脳機能画像」,AUDIOLOGY JAPAN,57巻6号,2014
鹿児島大学大学院HP.2020.9.21閲覧

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