撥音について考える

昨日は促音について考えましたが、今日は撥音です。
促音との違いは何かを考えながら構音訓練にどのように取り入れるかも考えます。
はじめに
皆さん構音練習を行う際に、どのような工夫をしていますか?
子音の調音点の違いや後続母音をどうするか等は重要であると思います。
加えて促音や撥音などの特殊拍の扱いに関して考えることも多いのではないでしょうか。
本日は特に撥音について考えていきたいと思います。
結論から言うと『撥音の時点で後続子音の構音動作の準備をしている』
ということは『撥音はどの音の前に置くか重要』です。
最後に促音と撥音の構音練習での使い分けの案を提案したいと思います。
促音の話はこちらから
撥音の特徴
では参考になる論文を紹介します。
Nの調音点の実態は、(略)aNta,aNsa,aNcja,aNraでは、舌さきで閉鎖あるいは狭窄が形成されているといえそうである。なお、aNpaのNでは唇の閉鎖が、そして、aNkaのNでは中舌と軟口蓋との間での閉鎖がこのX線映像からよみとりえる。
高田 正治 .撥音の実験音声学的研究.国立国語研究所研究報告集.3巻.1982
尖音に関しては映像が不鮮明であるために正確にはとらえられていないようです。ただ、二番目のC(子音)の形と似ていることから上記の内容であると考えたようです。
パラトグラフィではどのような接触になっているかも論文には紹介されています
3個の無意味音節列の数回の発話では、いずれのばあいも直前の母音とNの境界で閉鎖がほぼ完成されている。
(略)
発話速度をはやめてみても、Nにおけるこのような舌さきの閉鎖形成のタイミングに変化が認められなかった。高田 正治 .撥音の実験音声学的研究.国立国語研究所研究報告集.3巻.1982
促音と同様に『撥音の時点で後続子音の調音姿勢をとっている』といえると思います。
このことは、後続子音の構音動作の準備時間を長くとれることになります。促音と同様に臨床でも構音訓練の際には撥音を利用した単語の選定を行うことも少なくありません。
ちなみに、1983年の論文ですが、最近の論文を読んでも破裂音や破裂鼻音、弾き音などの閉鎖の性質を持つ子音が後続する場合には逆行同化を受けることは見解として一致しているようです。
臨床的での肌感覚としても論文の内容と一致することも多いのですし、出所も信頼できるので十分参考にはなると思います。
構音訓練でどのように撥音を考えるか
最後に促音と撥音使い分けを考えていきたいと思います。
共に後続子音の調音姿勢をとっていることは間違いなさそうです。
音声を教えるなどのMRI動画を観察しても同様のことが言えます。
ただし、軟口蓋の動きには差がありそうです。
促音では軟口蓋が挙上し鼻咽腔閉鎖が生じますが、撥音では生じません。
画像を出せないのが悲しいですが、「一個(いっこ)」と「インコ(いんこ)」と言い比べてもらえれば感じることができるのではないでしょうか。
では、軟口蓋の挙上が不十分な方では/b/が/m/の音に近い歪みが生じるこはあると思います。
ともに無声両唇音ですが、鼻音と破裂音の違いがありますので、軟口蓋の挙上の有無により置換か歪みが生じるかと思います。
軟口蓋の挙上を練習の中でもしっかり行いたい!!って場合には「がっぽり」など促音で調音姿勢を作ってあげることが良いかもしれません。
では、努力的な発話であり、発話自体により全体の緊張が高まってしまう場合にはどうでしょうか。
促音により調音動作に持続を要求され、緊張が高まってしまうこともあるかもしれません。
その場合には、「あんまり」など撥音を用いて、使用する調音器官を調整することも重要かもしれません。
このように後続子音の特徴と対象者の症状を合わせて使い分けるのが良いかと思います。
他にも良いアイディアがあれば是非コメントに残してもらえると励みになります。
さいごに…
2日間かけて僕よりも年上の論文を読みましたが、2015年以降の論文を読んでいても、服部四郎先生音声学(1951)や斎藤純男先生の日本語音声学入門(2006)はよく引用されています。
日進月歩の業界ですが、以前の論文を読み参考になることはあると思いますので、扱い方に注意して読んで勉強する姿勢は大切にしたいと思います。
別件ですが、『音声を教える』はめちゃくちゃおすすめです。
MRIの各音の動画が収録されているのでめちゃくちゃ勉強になります。
下にリンク貼っておきますが、結構安いので書店でもAmazonでもよいので是非買ってください。
これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。
引用:高田 正治 .撥音の実験音声学的研究.国立国語研究所研究報告集.3巻.1982
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