保続について考える

失語症

保続について考える

おくらら
おくらら

今日は臨床でも遭遇することの多い保続についてです。
特に失語症のリハビリでは言語性保続を見ることが多いと思います。
訓練のヒントも書いてある論文もありましたので紹介します。

言語性保続の定義と分類

失語症臨床では錯語や保続と遭遇する機会は多く適切に評価し分類する必要があります。

しかし、なかなかその訓練方法などは確立していない印象があります。

まずは分類と発生機序から論文を参考に考えていきましょう。

保続とはNeisser(1895)が「一旦開始された行為の不適切な繰返し」と定義した。

宮崎 泰広, 種村 純, 伊藤 慈秀, 三寳 季実子, 福本 真弓.失語症例における言語性保続の出現機序について.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).23巻4号.2003

保続は、遅延型刺激後保続(PPSD)、直後型刺激後保続(PPSI)、反応後保続(PPR)、持続性保続(CP)の四つの範疇に分類した。

兼本浩祐.複雑部分発作後のもうろう状態における言語性保続-言語性保続の各類型と他の錯語類型の相関関係-,神経心理学.7巻3号.1991

定義と分類に関して論文を参考にしようと思います。
定義に関してはどの論文でもNeisser(1895)のものを引用しているようです。
臨床での症状にももちろん合致しますし異論はないですね。

分類に関しては、両論文で
直後型』は直前の課題の反応が出現した場合
遅延型』は直前よりも前の課題の反応が出現した場合
持続性』は課題内で同様の反応があり、それが出現した場合
反応後』は課題内であるが他の反応があったのちに出現した場合
のように分類しているようです。

臨床症状としてもどれかには分類できると思います。今まで意識して「あ、これは直後型だ!!」とか、「こりゃ持続性保続だなぁ」とか意識したことはなく、「あ、保続でたな」と全て一緒の扱いをしていました。自分なりにメカニズムなどは想像しながらしていましたが、プロとして反省します。

保続の発生機序

次に発声機序について論文を参考に考えていきましょう。

高次精神活動が行われるには、興奮と抑制の過程が平衡性(選択性)と転換性(易動性)を保たなければならないとしている。

宮崎 泰広, 種村 純, 伊藤 慈秀, 三寳 季実子, 福本 真弓.失語症例における言語性保続の出現機序について.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).23巻4号.2003

運動性保続の図ですが、これはすごくわかりやすいですね。

まず、精神活動の選択性と易動性に関しては保続に関係なく非常に重要だと感じています。対象となる刺激の抑制と興奮を切り替えなくてはいけないことが圧倒的に多く、その場の選択肢から適切に選択する能力と、次々に思考を切り替えて処理する能力を要求されていると感じます。

注意障害や半側空間無視の臨床ではその点をすごく感じますし、こちらの声掛けの方法(内容や方向)やタイミングなどはかなり考慮しています。

模式図にするとすごくシンプルで分かりやすいですが、その知識をどのようにリハビリの中で活かすかが問われていると考えさせられる図ですね。

保続のメカニズムに関してもこのように考えられる場合と、それだけでは説明のつかない場合があるということでこの論文ではもう少し言語性保続について掘り下げています。

遅延型保続において直後型保続と比較して、意味的またが音韻的類似性が高いときに保続が出現しやすいことが得られた。このことより、遅延型保続においては、目標後における意味的類似性、音韻的類似性が関与していることが示唆された。

(略)

意味的に類似している場合は意味での選択において以前の賦活過程が抑制できずに保続が出現しているという「選択制の障害」が生じると考えられる。音韻類似性がある場合も音韻について、同様のメカニズムが考えられる。

宮崎 泰広, 種村 純, 伊藤 慈秀, 三寳 季実子, 福本 真弓.失語症例における言語性保続の出現機序について.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).23巻4号.2003

この結果は臨床での肌感覚とも一致します。やはり同じカテゴリーの単語で連続で呼称課題を行っていると保続が出現しやすくなることは多いと感じます。やはり意味の階層での選択性のリハビリの過程で避けては通れない障害なのでしょう。

また、この論文では意味性錯語と音韻性錯語も左の図の抑制障害により生じると書かれています。錯語に関しても語彙選択、音韻選択の障害としてアプローチすることが多いと思いますが、課題を進めていくうえで保続と混在しながら生じてくると思うので適切に評価する必要がありますね。

おくららが臨床で思うこと…

ただ、錯語と保続の違いを適切に評価しても結局『選択性の問題』なら同じじゃないのかと思ってしまうのは僕だけでしょうか。

そこで、少し別の要因についても論文を参考に見てみましょう。

時間間隔を15秒程度あけることで語の表象賦活は減衰し、言語性保続が発生しにくくなると考えられる。

石川 幸伸, 藤田 郁代.失語症患者における言語性保続の発生に関係する要因の検討.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).35巻3号.2015

共通する意味情報を持つ語を連続で呼称する際、脳内では目標後だけではなく、共通する意味情報を持つ語もある程度賦活する。(略)以前に呼称が終了している語は刺激提示の度に再賦活しており、語の賦活は持続し蓄積すると考えられる。

石川 幸伸, 藤田 郁代.失語症患者における言語性保続の発生に関係する要因の検討.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).35巻3号.2015

これがかなり参考になりました。

よく保続がある場合にはリハビリで時間をあけて呼称課題を行いますが、まさか15秒という目安があるとは知りませんでした。

また、同カテゴリ-で生じやすいことから共通の意味情報を持つ語が賦活しやすいのは理解できていましたが、語の賦活が蓄積するという部分にはなるほどと思わされました。この情報は何かリハビリに使えないのかと思ってしまいますね。

例えば『①はAとCを含む語』、『②はBとCを含む語』、『③はCのみ含む語』としたら①→②→③の順番ですれば最後の③はスムーズに呼称できるのではないでしょうか。

頻度や親密度、意味的カテゴリーを考えて訓練を進めることが当たり前ですが、ここまで考えてやらないといけないということかもしれませんね。

錯語や保続は失語症の訓練で頻回に遭遇しますが、今回の論文を参考にし、うまく誘導しながらリハビリを考えていければと思います。

ちなみに、最近手元に届いた音声言語医学に言語性保続のことが書かれています。そこではカテゴリーによる差について検証している内容でしたので、お持ちの方は是非読んでみてください。フリーアクセスになったら紹介します。

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:兼本浩祐.複雑部分発作後のもうろう状態における言語性保続-言語性保続の各類型と他の錯語類型の相関関係-,神経心理学.7巻3号.1991

宮崎 泰広, 種村 純, 伊藤 慈秀, 三寳 季実子, 福本 真弓.失語症例における言語性保続の出現機序について.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).23巻4号.2003

石川 幸伸, 藤田 郁代.失語症患者における言語性保続の発生に関係する要因の検討.高次脳機能研究 (旧 失語症研究).35巻3号.2015

臨床力up! 動画と音声で学ぶ 失語症の症状とアプローチ【Web動画付き】
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コメント

  1. […] 以前に保続の分類や機序について書きました。詳しくはこちらをご覧ください。 […]

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