注意障害のリハビリテーションについて考える

高次脳機能障害

注意障害のリハビリテーションについて考える

はじめに

言語聴覚士の臨床では注意障害について議論することが多いと思います。

そして困っていることも多いのではないでしょうか。

病棟からは注意障害はあるので勝手に行動してしまう、PTやOTからは歩行の際に周囲に注意が向かないなど多々あるかと思います。

特に実際にリハビリテーションする際に、どんなことやったらよいのか悩むことが多いと思います。

今回は注意のリハビリテーションについてAPTを紹介しながら考えていきたいと思います。

注意障害の分類

注意障害には全般性注意と空間性注意があります。空間性注意障害では半側空間無視のことを言うことが多く、病棟で「注意が悪い」と聞いたときは全般性注意のことだと考えて良いと思います。

注意分類には、持続性(sustained)、選択性(selective)、転換性(alternating)、配分性(divided)に分類されます。

参考書によってはAlerting、Orienting、Executive control(石合 2012)で分けられていることもあります。もちろん、読み進めていくと持続、選択、配分(分配)について書いてあります。

この分類はリハビリ部門内では共通言語としておく必要があると思います。評価方法にも書きますが、連携が重要になるからです。

連携するには共通言語は重要ですから、まだ教育されていない場合には共通言語の指導を言語聴覚士発信で行っていただけれる良いと思います。

評価方法

標準注意検査法(CAT)

机上検査としては標準注意検査法(CAT)が最も一般的だと思います。僕も臨床で注意機能を詳細に評価する際にはよく利用します。

脳損傷例にしばしば見られる注意の障害や意欲・自発性の低下を臨床的かつ定量的に検出・評価することを目的としている。

① Span
  1)Digit Span(数唱)
  2)Tapping Span(視覚性スパン)
② Cancellation and Detection Test(抹消検出課題)
  1)Visual Cancellation Task(視覚性抹消課題)
  2)Auditory Detection Task(聴覚性抹消課題)
③ Symbol Digit Modalities Test(SDMT)
④ Memory Updating Test(記憶更新検査)
⑤ Paced Auditory Serial Addition Test(PASAT)
⑥ Position Stroop Test(上中下検査)
⑦ Continuous Performance Test(CPT)

加藤 元一郎, 注意·意欲評価法作製小委員会,標準注意検査法 (CAT) と標準意欲評価法 (CAS) の開発とその経過,高次脳機能研究 (旧 失語症研究),26巻3号,2006

臨床的な肌感覚ですが、この検査だけでかなり机上の注意機能は把握することが出来ます。

逆にいうと机上の注意機能はわかりますが、ADLへの影響に関しては判断しきれません。

大切なのは机上の注意機能からADLへの影響を想像することです。

では、言語聴覚士のみでADLを把握できるでしょうか。まず不可能です。めちゃくちゃ頑張れば日中のADLであれば把握することが可能かもしれません(これも単位を取ろうと思うと無理)。

どちらにせよ夜勤帯に関しては不可能ですので病棟と情報共有を行う必要があります。

高次脳機能障害に関してはリハビリ部門では作業療法士と言語聴覚士が評価し関わるすることが多いと思いますが、病棟スタッフも含めて行動からもみていかないといけないので連携が重要になります。

その時に、やみくもに行動評価しても難しいので、机上からの評価結果から視点を考えることが重要だと思います。

注意障害の行動尺度(BAAD)

机上の検査だけではなく行動から評価する尺度も存在します。


OT場面と家庭場面による評価合計点はほぼ一致し、級内相関係数も高値を示した。つまりBAADは良好な検者間信頼性を有し、OT場面に限定せず過程での行動観察からも注意障害に関して有用な情報が得られることを示唆している。

豊倉 穣, 菅原 敬, 林 智美, 西村 葉子, 村山 理恵.家族が家庭で行った注意障害の行動観察評価
—BAAD(Behavioral Assessment of Attentioal Disturbance)の有用性に関する検討—.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine.46巻5号.2009

僕あんまり知らなかったので恥ずかしいですが、調べたらありました。

非常に簡便に行えるので良いですね。当院ではCBAを用いて高次脳機能障害をADLから評価するように意識しておりますが、行動から評価できるのは大変参考になりますね。

さらに家族が行ってもほぼ一致していたとのことなので、行動を観察できる人が行えば有効な評価が出来るところは期待できます。

実際に用いたことがないので、今後臨床で用いてみてからコメント書いていきたいと思います。

リハビリテーション

APTとMAPT

A. sustained attention
 1. number cancellation
 2. attention taps
 3. serial number
B. selective attention
 1. shape cancellation with distractor overlay
 2. number cancellation with distractor overlay
 3. attention taps with background noise
C. alternating attention
 1. flexible shape cancellation
 2. flexible number cancellation
 3. odd and even number identification
 4. addition subtraction flexibility
 5. set dependent activity
D. divided attention
 1. dual tape and cancellation task
 2. card sort

鹿島晴雄.注意障害のリハビリテーション-前頭葉損傷3例で経験-.神経心理学.6巻3号1990

APTを一部修正して日本語訳を行った(MAPT)。

MAPT
(1)sustained attention
 ① 数字抹消テスト
 ② 数字系列テスト
(2)selective attention
 ① シートカバーを付けての図形抹消テスト
 ② シートカバーを付けての数字抹消テスト
(3)alternating attention
 ① 目標図形が変化する図形抹消テスト
 ② 目標数字が変化する数字抹消テスト
 ③ 偶数、奇数の抹消テスト
 ④ 足し算、引き算テスト
 ⑤ 高、中、低テスト
   漢字、平仮名テスト

豊倉 穣, 本田 哲三, 石田 暉, 村上 恵一.注意障害に対するAttention process trainingの紹介とその有用性.リハビリテーション医学.29巻2号.1992

APTとMAPTについて紹介されていました。

抹消テストは割愛しますが、『系列テスト』は7シリーズのように100から1桁の数字を引いていく課題です。シートカバーは視覚性のノイズをかける方法です。偶数、奇数抹消は交互に偶数と奇数をチェックしていく方法です。高、中、低課題は、音読する場合と語の位置を答える場合があるようなのでCATの上中下課題と類似していると思います。

実際に同様の方法をやることは難しいかも知れません。

このように課題の方法を知ることは臨床のアイディアにつながると考えます。

これから僕たちは何をすべきか

教材のページにも書きましたが、何となく思考課題を行っても意味がありません。

課題設定を十分に行う必要があります。

もちろんAPTのように体系化されている課題を行うことに意味はあると思いますが、なかなかそのまま運用できないこともあるかと思います。

言語聴覚士自身が課題の難易度を考えて介入することが大切でありそのヒントになればよいなと思います。

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:加藤 元一郎, 注意·意欲評価法作製小委員会,標準注意検査法 (CAT) と標準意欲評価法 (CAS) の開発とその経過,高次脳機能研究 (旧 失語症研究),26巻3号,2006
豊倉 穣, 菅原 敬, 林 智美, 西村 葉子, 村山 理恵.家族が家庭で行った注意障害の行動観察評価
—BAAD(Behavioral Assessment of Attentioal Disturbance)の有用性に関する検討—.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine.46巻5号.2009

鹿島晴雄.注意障害のリハビリテーション-前頭葉損傷3例で経験-.神経心理学.6巻3号1990
豊倉 穣, 本田 哲三, 石田 暉, 村上 恵一.注意障害に対するAttention process trainingの紹介とその有用性.リハビリテーション医学.29巻2号.1992

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