食事の声かけについて考える

嚥下障害

食事の声かけについて考える

先行期の重要性ってどうなんだろうか

言語聴覚士なら『先行期』という言葉は知っていると思う。もし知らないのであれば嚥下関連の書籍に目を通してください。

よく嚥下障害で話に上がるのは準備期以降だと思う。

プロセスモデルでもstage1に線が引かれていることを見たことがあります。

ただ、臨床ではその時点でエラーが起こり、その後のステージをより複雑にしていることも感じます。

本日は先行期に関して考えてみます。

※引用論文は有名誌ですので皆さん知っている情報かも知れません。

介助の時の声かけは効果があるのか

言語聴覚士の皆さんは食事の介助の時に声かけを行っていると思います。参考書にも「患者が何を食べているかわかるように声かけを行う」と書いていることが多いと思います。

そんなの当たり前じゃんと思いませんか?特に先行期を知っていれば当然ですよね。

刻み食やミキサー食の場合には見ただけでは食材が何かわからないことが多いと思います。声かけを行いながら介助をして食事を楽しんでもらうためには必要であると思っていました。

そんな中で興味深い論文があります。

ポテトチップスを咬合中の咬合音を増強した場合や、高周波音を選択的に増幅した場合に、歯切れの良さや新鮮感が知覚される。(略) 飲料の写真を提示すると、一般物質の写真を提示した場合に比べ嚥下運動が速くなる、など口腔や咽頭の感覚受容器からの情報に加えて、視覚、聴覚などの感覚情報も食物の認知や嚥下運動に影響している。

中村 文, 今泉 敏.予告の適否が飲料の嚥下運動に及ぼす影響―嚥下音および表面筋電図を介した検討―.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.15巻3号.2011

音声情報無条件に比べて音声情報条件で舌骨上筋群最大値が優位に増加した。

中村 文, 今泉 敏.予告の適否が飲料の嚥下運動に及ぼす影響―嚥下音および表面筋電図を介した検討―.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.15巻3号.2011

口腔内への飲料投入をあらかじめ知らせた方が、知らせない場合よりも嚥下運動時により強い筋収縮が得られる可能性がある。

中村 文, 今泉 敏.予告の適否が飲料の嚥下運動に及ぼす影響―嚥下音および表面筋電図を介した検討―.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.15巻3号.2011

高齢者にとって声かけによる飲料予測の成立、不成立が重要で、予測が成立しないと、嚥下販社と舌骨下筋群の活動の時間関係も変化してしまう。

中村 文, 今泉 敏.予告の適否が飲料の嚥下運動に及ぼす影響―嚥下音および表面筋電図を介した検討―.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.15巻3号.2011

この実験は健常者(成人と高齢者)に『リンゴジュース』『お水』『青汁』を見えないシリンジに入れて予告有り・無しで口入れて嚥下してもらうというものです。結果は上記の通りですが、声かけがあるとないで筋出力が変化するというものです。これはかなり先行期の重要性が変わってくると思います。

注意しなくてはいけないのは、この研究は嚥下障害患者に行ったわけではないとうことです。かならずしも同じ結果になるとも限りませんし、障害によっては過剰に構えが生じ不具合が生じる可能性もあります。

しかし、正常な運動パターンとして考えると声かけの有無により筋収縮が変化することを知っておくのは重要です。決して特殊な手技ではなく嚥下機能を援助できるのでやる価値は十分にあると思います。

見えている情報に効果はあるのか

視覚情報により摂食動作がどのように影響するか考えてみたいと思います。

先行期における視覚情報は様々な影響を及ぼしています。

色により食欲が変化することはよく言われていますね(中華料理で赤が多いのは食欲が増すかららしいですよ。エビデンスは知らんけど)。また、食器との距離間をつかみ、食器を選択することなども重要な要素です。特に麻痺を呈している場合には姿勢制御機能の低下と道具操作が拙劣となっているので必要以上に力が入ってしまい過剰に反応してしまうことはよく臨床で見ます。

行動様式にまで目を向けると面白い報告がありました。

「松花堂弁当箱」に変更した結果、以下の変化が生じ、かき込み食べは改善された
①器を持ち上げなくなった
②スプーンですくって口に運ぶようになった
③摂食ペースが一口一嚥下になった
④摂食ペースがゆっくりとなったため、副次的によく噛むようになった

柏村 浩一, 田中 早貴, 藤谷 順子.松花堂弁当箱の使用により食事摂取方法が安全になった1症例の経験.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.17巻3号.2013

誤嚥性肺炎により入院していた認知症患者に対して食器を松花堂弁当箱に変更したところ摂食動作が変わったという報告です。

全く特殊な技術を用いずに、食環境だけで誤嚥性肺炎の危険性を見事に管理した報告です。

また、この報告の面白いところは食文化という側面を利用している点です。病前からある食生活のパターンを利用していると思います。テーブル環境やエプロンなどを変更するのも良いのかもしれません。

食具を変更するアイディアはよく臨床で用いますが、視点を変えて食器側も視野に入れれると環境調整の方法が増えると思います。そのためにも栄養部とは仲良くしておく必要があります。

これから僕たちは何をすべきか

単純に先行期を大切にしましょうという話です。

今回は嗅覚や体性感覚のことを挙げていませんが検討の余地は多いと思います。

言語聴覚士として、ただ介助をするのか、直接嚥下訓練として食事介助をするのか。

ついついね…となっている臨床を見直すいい機会となりました。

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:中村 文, 今泉 敏.予告の適否が飲料の嚥下運動に及ぼす影響―嚥下音および表面筋電図を介した検討―.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.15巻3号.2011
柏村 浩一, 田中 早貴, 藤谷 順子.松花堂弁当箱の使用により食事摂取方法が安全になった1症例の経験.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.17巻3号.2013

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