構音障害のリハビリテーションについて考える

構音障害

構音障害のリハビリテーションについて考える

構音障害のリハビリテーションはなぜ難しいといわれているのか

先日散歩していたら『貫こう』と思う出来事がありました。
僕は北海道の研修会で今回紹介する論文の著者である長谷川先生の研修会を受けました。
その時の衝撃で僕は北海道を出ることを決意したんです。その日から運動障害性構音障害の臨床が楽しくなりました。
ですので、今日は運動障害性構音障害のリハビリテーションについてです。

周りの言語聴覚士からは運動障害性構音障害の臨床では、難しいとい言葉もよく聞きます。実際に「難しい、訓練効果があがりにくい障害」と一般的に言われることもあります。

僕は失語症とか高次脳機能障害の方が難しいと臨床では感じます。それは治療対象の違いがあると思います。

運動障害性構音障害は発声発語器官の筋です。一方、失語症や高次脳機能障害の治療対象は多岐にわたります。脳内の処理を理解し、反応からそれを推測する必要があるから難しいと感じます。そして、脳内の処理には個性や情動など個別の因子が強く影響します。

誤解を生まれるのを覚悟でいうと、失語症と高次脳機能障害は見えないし触れれないが運動障害性構音障害は見えるし触れることが出来るからです。

運動障害性構音障害の臨床も見ないし触らないままでは難しいかも知れません。

治療の考え方

まずは、治療の考え方から考えていきます。
僕が大切にしている論文から引用します。

治療を考えるときにはまず運動動態そのものの解析、すなわちそこで起こっていることを明らかにすることと、その動態の背景にある運動制御とその障害、さらに運動学習メカニズムについて考える必要がある。

長谷川 和子.〈STとして何ができるか、何をすべきか〉運動障害性構音障害の臨床から.コミュニケーション障害学.24巻1号.2007

なぜ、発声発語器官の運動が拙劣になっているのか、なぜ構音障害が生じるのかを考える必要があります。それには解剖学や音声学の知識も必要です。ここでいう音声学は調音音声学もそうですが、音響音声学も必要です。

正常を知ることで異常を診ることが出来ると考えます。まずは正常を知る必要があります。健常者同士で観察しあうのも大切ですが、素晴らしい参考書がたくさんあるのでそれを参考にするだけでも十分だ勉強になります。

少しマニアックなことになるので、一部は過去の記事にあります。よかったら見てみてください。
●構音時の舌運動を考える
●母音発声時の舌運動を考える
●超音波で調音をみることを考える

実際の介入方法

次に実際の介入方法を考えていきましょう。
それに関しても論文に一部書かれています。

長谷川 和子.〈STとして何ができるか、何をすべきか〉運動障害性構音障害の臨床から.コミュニケーション障害学.24巻1号.2007

治療では安定性と運動性の確保、そして運動性には選択的運動を大切にする必要があります。

これは、高速で運動する構音運動を行う際に、必要のないところは動かさないことが必要になるます。効率よく運動を行うためには、部分によって安定させ必要な部分を運動させる必要があります。臨床ではこの選択的に運動することが難しく、舌がいっぺんに動いてしまうことが多くあります。

僕も臨床では、引用文献の図で行うように舌側縁の安定性を確保した中で母音の練習を行います。よくよく観察していると母音も的確な舌位置ではなく構音していることも多くあります。綿棒を用いて舌縁の口蓋接触を誘導しながら調音を行います。

子音の構音でも、同様に舌側縁の挙上を誘導しながら行うことがしばしばあります。歯茎音や後部歯茎音を調音点に持つ子音では舌尖の選択的な運動を行う必要があります。引用文献の図にあるような方法や様々な道具を用いて舌に刺激を与え舌形成を促したのちに舌の空間位置を変えるような運動を行います。

決められた方法はないので対象の状態に合わせて検討し行う必要があります。その為には十分に観察し、評価する必要があります。毎回のリハビリで反応⇒評価・考察⇒治療⇒反応⇒…を繰り返していきます。

少し乱暴ですが、なぜ多くの言語聴覚士は失語症ではめちゃくちゃ考えるのに運動障害性構音障害ではそこがふわっとするのか…。

これから僕たちは何をすべきか

まずは、目の前の対象者の状態を評価することから始めるべきだと思います。

ちゃんとみれているのか。正常運動を知ったうえでみれているか。

みてるつもりになっていないか。

一回AMSDをやって評価した気になっていないか。
※誤解のないように、AMSDはすばらしい検査です。定期的に行い定量的に変化を追い訓練効果を確認する必要があります。一回一回の反応を評価するために毎日AMSDしないでしょ?そういう意味です。

僕もほとんどできていません。でも挑戦する姿勢は大切にしたいですね。
そんな気持ちをこれからも貫いていこうと思います。

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:長谷川 和子.〈STとして何ができるか、何をすべきか〉運動障害性構音障害の臨床から.コミュニケーション障害学.24巻1号.2007

コメント

  1. STさん より:

    いつもブログ拝見させていただいています。以前私も長谷川先生の講義を受けたことがあり、初めて見るアプローチに衝撃を受けたのを覚えています。
    先生は長谷川先生の講義を受けてから、実際の評価やアプローチをどのように深められましたか?参考にした書籍や文献があれば教えていただけるとありがたいです。
    また調音音声学の視点では考えていたのですが音響音声学の視点ではどういった風に臨床にいかしていますか?

  2. STさん より:

    いつもブログ拝見しています。私も長谷川先生の講義を受けたことがあり、今まで知っていた評価やアプローチと違い衝撃を受けたのを覚えています。長谷川先生の講義を受けてから、評価をアプローチを深めた際に使用した文献や書籍があれば教えてください。また調音音声学の視点では考えていたのですが音響音声学の視点では考えていませんでした。音響音声学は臨床でどのように用いていますか?

    • okurara より:

      コメントありがとうございます。
      また、こちらの設定により二度送信いただくことになり申し訳ございませんでした。

      >いつもブログ拝見しています。
      ありがとうございます。一人でも見ていただけていると思うと励みになります。

      >私も長谷川先生の講義を受けたことがあり、今まで知っていた評価やアプローチと違い衝撃を受けたのを覚えています。長谷川先生の講義を受けてから、評価をアプローチを深めた際に使用した文献や書籍があれば教えてください。

      文献は椎名先生と長谷川先生が書いている資料は集めました。
      後はボバースや環境適応、活動分析研究会に参加して勉強したぐらいです。
      他の方からも質問があったので書籍に関してはまた紹介する予定です。

      >また調音音声学の視点では考えていたのですが音響音声学の視点では考えていませんでした。音響音声学は臨床でどのように用いていますか?

      音響分析もそうですが、共鳴の勉強を改めてしてから母音の舌の位置も意識するようになりました。具体的にが、舌を引き込みながら母音調音する方がいて音声の変化と舌の位置の変化を感じるように意識していたことです。

      参考になっていれば良いですが。

  3. STさん より:

    返信が遅くなりました。
    丁寧な返信ありがとうございます。
    活動分析などはコロナが落ち着いたら是非参加したいと考えています。
    子音は意識して見ていますが、母音は私自身臨床であまり意識できていないなと感じました。意識して見てみたいと思います。ありがとうございます!!

  4. st より:

    ブログ拝見させていただきました。
    私も長谷川先生の講義は何度か受講させていただき、感銘を受けた一人です。

    >一回AMSDをやって評価した気になっていないか。
    これに関しては、とても共感致します。
    (もちろん、筆者様同様、AMSDは素晴らしい検査の一つと認識してます)

    Dysarthriaの臨床では、細かな運動の実現というところが課題になるかと思います。
    (特に調音器官)
    その運動を引き出すために、介入しながらの評価というのは毎回のセッションで必要と考えています。反応の誘導、修正と行っていく事で、確実にDysarthiaは改善に向かうと考えています。
    (もちろん、ケースバイケースで全例は難しいですが)

    多分、徒手介入の機会が養成校時代に少ない事、現場(実習で)であまり見る機会がないことから、画一的な(教科書的な)訓練が定着しているのかなと思います・・・

    大変興味深い内容であり、コメントさせていただきました。
    今後もブログ拝見させていただきます。

    • okurara より:

      コメントいただきありがとうございます。
      大変励みになりました(最近は研究や執筆があり更新できていませんが…)。

      >Dysarthriaの臨床では、細かな運動の実現というところが課題になるかと思います
      (特に調音器官)。その運動を引き出すために、介入しながらの評価というのは毎回のセッションで必要と考えています。反応の誘導、修正と行っていく事で、確実にDysarthiaは改善に向かうと考えています(もちろん、ケースバイケースで全例は難しいですが)。

      非常に知識を要求され難しい領域であるといつも感じております。
      調音器官への介入には解剖学や調音音声学の知識が重要になりますが、個別性もあるように感じますのでその場での判断力が必要になる印象です。また、介入の原則として反応-評価ー治療を繰り返すことの重要性を感じます。

      >多分、徒手介入の機会が養成校時代に少ない事、現場(実習で)であまり見る機会がないことから、画一的な(教科書的な)訓練が定着しているのかなと思います・・・

      この点に関して私も共感いただいます。
      諸先生方で工夫している点は多いと思うのですが、あまり公表されていないので…。

      今後も皆さんのお役に立てるように精進いたします。

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