道具操作について考える

高次脳機能障害

道具操作について考える

道具の使用の時に脳内で何が起こっているのか

以前に失行の話を考えましたが、もう少し掘り下げて考えてみました(以前のはこちら)。

本当は入來先生のサルの熊手の実験を紹介する予定でしたが、調べてたら何となく自分の臨床の肌感といっちしたので路線変更して失行について書きます。

注意:最後の方が自分の考えをひたすら展開しています。エビデンスとかはない僕が臨床で感じたことをひたすら書いています。

まずは、物を見てから手を伸ばす脳内ネットワークのですが、以前に紹介した緒方先生の論文で紹介されていた川平先生の図が秀逸だと思います。


引用:緒方 敦子, 川平 和美, 失語症と観念失行, 高次脳機能研究 (旧 失語症研究), 32巻2号, 2014
(図で引用されているものは、川平和美:Ⅱ.促通反復療法の理論的背景.片麻痺回復のための運動療法─川平法と神経路強化的促通療法の理論.医学書院,東京,2006, pp)

観念失行があっても道具使用のプログラムは保たれており,正しいプログラムのセットが正確にできるかどうかが問題であると考えられた。

引用:緒方 敦子, 川平 和美, 失語症と観念失行, 高次脳機能研究 (旧 失語症研究), 32巻2号, 2014

後頭葉の視覚野に情報が入力され、背側経路(どこかの経路)と腹側経路(なにかの経路)でどこになにがあるかを処理しています。その後、前頭前野で意図が作られ、運動前野で運動のプログラミングがなされて、一次運動野から筋肉に指令を送るという流れになっています。

また、論文の中ではプログラム自体は保たれているもそのセットの問題であると考察しています。

これは臨床で見られる症状と一致しています。プログラム自体が崩壊していれば意識していなければできることと辻褄が合わないからです。だから、随意的に行う際はセットがうまくいかずにプログラミングの問題が生じるといわれれば納得できます。

何回も繰り返し使用した道具は,視覚情報によって頭頂葉ではその道具操作の手指形態を記憶している連合野細胞の興奮が生じ,運動前野では刺激に対応した運動プログラムの自動的セットが生じる。

引用:緒方 敦子, 川平 和美, 失語症と観念失行, 高次脳機能研究 (旧 失語症研究), 32巻2号, 2014

Poiznerら(1990,1995)は、動作における関節の軌跡と速度を3 次元で解析し,失行症患者は複数の関節を正しく協調させることができないことを発見した。彼らはこの実験結果から,失行症患者は動作の空間プラン(動作の幅,動作が行われる面,軌跡など)に誤りがあるだけでなく,空間プランを適切な関節運動に翻訳する能力に支障をきたしていると述べている。

松井沙織,酒井浩,清水賢二,田後裕之,高橋守正.動作の分解と再構成を用いた段階的再学習訓練が効果的であった失行症の一例.認知リハビリテーション.19巻1号.2014

※孫引きで申し訳ないです…。

緒方先生の論文から『運動前野では刺激に対応した運動プログラムが自動的セットが生じる』と、松井先生の論文から『動作の空間プラン(動作の幅,動作が行われる面,軌跡など)に誤りがあるだけでなく,空間プランを適切な関節運動に翻訳する能力に支障をきたしている』と書かれています。

僕なりに解釈したんですけど、運動前野で運動プログラム自動的にセットされないってことは、刺激が正しく解釈入力されていないもしくは刺激が正しく入力されていないと考えられませんか。どちらにせよ、正しい感覚情報を提供し運動プログラムセットのミスを減らすことが大切なように感じます。

これ臨床の肌感とも一致します。

まずは、運動の選択肢を減らすように課題設定を行います。例えば、急須とお茶葉とお湯用意しても出来ないものはできないんだから、評価も兼ねてもう少し要素が類似しているような簡単な課題から行いますよね。

また、運動に過剰に力が入っている場合にはこちらが徒手的に介入し運動を誘導します。もちろん徐々に運動が理解できれば徒手的な介入は減らしていきます。

これらの手続きを行えば即時的にですが、動作が可能となることを経験します。

長続きしないことにはもっと深い理由があると思いますが、できないことを何度も練習するよりも学習のチャンスを提供していると思います(信じています…)。

参考書を読むと「失行症のリハビリテーションの有効性は確立されていない」と書かれているかと思います。作業療法士の領分であるように感じますが、言語聴覚士も一緒に評価し言語聴覚士にしかできないかかわり方を検討していくことが現状我々が出来る最善であると感じます。

これからも色々な視点から考えていきたいですね。
皆さんも気づいたことがあればコメントやコンタクトで意見ください。

引用:引用:緒方 敦子, 川平 和美, 失語症と観念失行, 高次脳機能研究 (旧 失語症研究), 32巻2号, 2014
松井沙織,酒井浩,清水賢二,田後裕之,高橋守正.動作の分解と再構成を用いた段階的再学習訓練が効果的であった失行症の一例.認知リハビリテーション.19巻1号.2014

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